フランス式エリート教育

中央公論の1月号を読んでいると、鹿島先生がフランスのエリート教育システムについて書いていた。それによると、「グランド・ゼコールと呼ばれるエリート校の始まりは一七九四年」で、「大学教員の養成を目的とするエコール・ノルマル・シュペリウール」(=高等師範学校)と「理科系軍人の養成機関たるエコール・ポリテクニック」(=理工科学校)はともに、フランス革命時に誕生したものなのだという。これには深い意味があって、「つまり、グランド・ゼコールは、亡命して姿を消した『血の貴族』に替えて『知の貴族』を置くという共和国の方針に準じて設けられた制度なのである」。それゆえ「フランスは王政から共和制への転換に際して、教育によって民衆全体の底上げを図るのではなく、一握りの指導層に入れ替えを行ったにすぎない」。それはフランスの社会構造に起因したものであり、「農民が国民の九〇パーセント以上を占める」という状況では、「民衆の底上げを図るという迂遠な方法よりも、即戦力になるエリートの短期養成」が選ばれたのである。
では、そのエリート教育の実態はどうか。凄いのは、エコール・ノルマル=100人、エコール・ポリテクニック=300人、1945年に設立されたENA(=国立行政学院、エコール・ナシオナル・ダドミニストラシオン)=150人、という少数精鋭ぶりだ。この合計550人がフランスの真のエリートであり、それにつづく各種グランド・ゼコールを合わせても、一学年でエリートといえるのは千数百人くらいだそうだ。
グランド・ゼコールへの入学は、次のようになっている。「大学なら、リセの最終学年を終えてバカロレア(大学入学資格試験)に合格すれば、どこの大学でも入学できる(大学はカトリック大学を除いてすべて国立。大学生の総数は二〇万人くらい)が、グランド・ゼコールの場合は、ルイ大王校やアンリ四世校、コンドルーセ校といったリセの中の有名校に設けられた特別学級で二年間余計に勉強しなければならない。しかも、その後、グランド・ゼコールごとに厳しい選抜試験があり、チャレンジは普通二回までとされている」。落ちたら、大学3年次からの編入となる。
グランド・ゼコールの制度や教育内容は、各学校によってまったく違うものだという。それらの共通点は、「在学中から公務員試補手当という給料が支給されること」、「全寮制の寮費が食費を含めて全額無料ということ」、「在学中の成績によって一番からビリまで席次がつき、その席次によって、公務員として用意されるポストが違ってくるということ」、の三点に集約できる。
かつて蓮実大先生が言っておられたが、トーダイの場合、トップ3割は世界で通用する知的エリートたりうるという。トーダイは一学年3000人ほどだから、3割ってことはやはり1000人くらいが該当するわけだ。なので、フランスの場合とあまり変わらない(むしろ蓮実はフランスから逆算して、このようなことを言ったのかもしれない)。ただし文一は、ロースクール設置の影響を受けてだいぶ入学人数が減ったから、フランス並みのエリート化に近づいているかもしれない。