引用

岩波・講談社的教養文化への対抗戦略として読み解くなら、そこで何が対抗され、何が共有されていたかが分かって面白いのではないか。

…しかし、分厚い叙述のあいまから、この本は巳之吉の隠れた内面を、巧みにあぶりだして見せる。西欧文学の香気を演出し、芸術の純粋な擁護者として自画自賛をくりかえす、尊大な外見の奥には、したたかな経営戦術と、深く身についた文化を本当はもたないことに対する、薄氷をふむような不安とがあった。日中戦争がはじまると軍事化の時勢に合流し、経営好調のなかで廃業してしまうなりゆきも、その奥にあるものをたどったあとでは、納得がいく。

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20061016bk04.htm