溝口健二『虞美人草』(1935)

ついに溝口健二特集。

(73分・35mm・白黒)夏目漱石の同名小説に、伊藤大輔が潤色を加えた一篇。主人公の男が二分された社会層、二人の女のもとを行きつ戻りつし、自他の心を動揺させる。原作が令嬢の藤尾をヒロインとしたのと違い、大倉千代子扮する庶民の女・小夜子が、映画ではヒロインに位置づけられた。小夜子はもともと山田五十鈴が演じることになっていたという。松竹大谷図書館所蔵の可燃性オリジナル・ネガより復元した。
’35(第一映画)(原)夏目漱石(脚)伊藤大輔、高柳春雄(撮)三木稔(美)西七郎(音)酒井龍峯、郄木孝一(出)月田一郎、夏川大二郎、武田一義、大倉千代子、岩田祐吉、三宅邦子、根岸東一郎、寺島貢、小泉嘉輔、梅村蓉子、二條あや子

やっぱり日本映画はええわ。好き。風邪でものすごくしんどかったけど、世事を忘れて物語世界に浸った。
たぶんプロット的には失敗作というしかない漫画的脚本だけど、それにどう考えても演技がへたくそだけど、小野の小心な秀才ぶりが面白かったし、コメディーとしての娯楽性はそれなりにある。男の心が女二人の間で揺れ動くという設定も珍しい。バンカラ気風の藤尾の許婚が、突然善人ぶりを発揮したのは、時代を感じさせた。正直者全肯定なのがすごい。溝口の全体像を知る上での価値はあり。