『イワン・イリイチの死』
トルストイ。昨晩読了したのだが、そのせいで世俗的なことに打ち込む気を失ってしまった。今日は気分がぜんぜん乗らなかった。
死の意識に苛まれたイリイチは心の声とともに内省する。
幼年期には確かに、もしも取り戻せるならばもう一度味わってみたいような、なにか本当に楽しいものがあった。だがその楽しさを味わった当の人間は、すでにいないのだ。それはまるで、誰か別の人間についての思い出のようであった。
今の彼、つまりイワン・イリイチの原型が形成された時代を思い出し始めるや否や、当時は歓びと感じていた物事がことごとく、今彼の目の前で溶けて薄れ、なにかしら下らぬもの、しばしば唾棄すべきものに変わり果てていくのであった。(中略)
自分では山に登っているつもりが、実は着実に下っていたようなものだ。まさにその通りだ。世間の見方では私は山に登っていたのだが、ちょうど登った分だけ、足元から命が流れ出していたのだ……。そしていまや準備完了、さあ死にたまえ、というわけだ!(120−122)
死ぬ前に気づいておきたいところです。
これまでまったくありえないと思われていたこと、つまり自分が一生涯間違った生き方をしてきたということが、実は本当だったかもしれないという考えが、脳裏に浮かんだ。ひょっとしたら、世間で一番立派だと思われている人々が良いとみなしていることに逆らおうというかすかな衝動、彼が心のうちに自覚するたびに即座に追い払ってきたそうした衝動こそがまっとうであって、他のことはすべて誤りかもしれない――そんな気がしたのだ。(130)
めちゃくちゃそんな気がする。
寝る前読んでいると微妙に癒されたので、おすすめしたい。最後の場面をどう考えるかは問題だけど*1。
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
- 作者: トルストイ,望月哲男
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/10/12
- メディア: 文庫
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