絲山秋子『袋小路の男』

３篇中、連作の「袋小路の男」「小田切孝の言い分」の２篇を読んだ。
「袋小路の男」は、かっこいいけどつれない作家志望の男に、高校時代から惚れ続けている30代の女性の視点から書かれている。「小田切孝の言い分」は、男性と女性の両方を客観的に捉える視点から書かれている。
失敗作だろう。一作目を単独で読むと、恋愛体質の女性のリアリティーをそれなりに捉えているように読める。しかし２作目を読んでしまうと、男性側の視点を交えて客観的に見たら、30代にもなってカッコイイだけの昔の男にこだわっている女なんて、やっぱりただの馬鹿だよなと思わないわけにはいかない。そしてそんな馬鹿な女に、セックスもしないでだらだら付き合っているこの男は一体何なんだ、という疑問も湧いてくる。男の描き方にリアリティーがまったく感じられない。
でも所詮、人間なんて馬鹿な生き物なのだから、かっこいい男に勝手な幻想を投影してしまう馬鹿な女のリアリティーも、それはそれで切実なものであるわけで、そういう意味では、それなりに面白い小説と言えるのかもしれない。

袋小路の男