川島雄三『洲崎パラダイス 赤信号』(1956)

(81分・35mm・白黒)芝木好子の小説を映画化した、川島の代表作の一つ。貧しさのあまり旧洲崎遊郭へ流れる女(新珠)とその後を追う頼りない男(三橋)は、自分を見失いそうになりながらも、生きる道を模索する。行方不明の夫と再会し、間もなく死別する女に扮した轟夕起子の熱演も見所。
’56(日活)(原)芝木好子(脚)井手俊郎寺田信義(撮)郄村倉太郎(美)中村公彦(音)眞鍋理一郎(出)新珠三千代轟夕起子河津清三郎三橋達也芦川いづみ、牧眞介、桂典子、田中筆子、植村謙二郎、冬木京三、小澤昭一、山田禪二、菊野明子、隅田恵子、津田朝子

フィルムセンターは満員。有名作品であるため。でも、これだったら『わが町』の方が傑作だとわたしは思った。
ダメ男と、快活だがやはりダメな女の、グズグズの恋物語。こういう主題は難しいかもしれない。三橋達也があまりにウジウジしているので、小沢昭一芦川いづみちゃん(カワイイ。好き)とでバランスを取っている。でも、うじうじしすぎだよなぁ。
洲崎パラダイスのネオンサイン、濁った川面、ふり出す雨などの風景描写は素晴らしい。間の悪さもきちんと計算されてコントロールされているので、そこはさすがだと思った。背景で常に鳴っている工場の騒音も、ほんとうに素晴らしい雰囲気を醸し出している(橋本文雄)。
新珠三千代の魅力も触れないわけにはいかない。いちばん素晴らしかったのは、パラダイスのアーチの下で、純情な男に頬を叩かれるシーン。このとき、自分のだらしなさに目が覚まされ、三橋への愛情に再び気付くのだ。そのときの新珠の表情!
でも川島雄三のリズムというよりは、助監督の今村昌平の生理に近い映画かもしれないなと感じた。ちなみに木村聡『赤線跡を歩く』(ちくま文庫)によると、橋があったところの現住所は東陽三丁目だそうで(木場駅門前仲町?)、洲崎遊郭は根津にあった遊郭明治21年に移転してきたものだったとのこと。大正半ばが全盛でやがて空襲で全焼、戦後は細々とは続いたらしい。そういえば、東大の近くに遊郭があるのはマズいと判断された、といった話を何かで読んだような記憶がある。

赤線跡を歩く―消えゆく夢の街を訪ねて (ちくま文庫)

赤線跡を歩く―消えゆく夢の街を訪ねて (ちくま文庫)