黒澤明『まあだだよ』(1993)

(134分・35mm・カラー)文学者・内田百輭の半生を描いた黒澤明の遺作。脇役として登場することの多かった松村達雄だが、慕ってくる元教え子たちに囲まれて飄々とユーモア溢れる暮らしを送る百輭を見事に演じている。頭師孝雄も元教え子の一人として出演した。
’93(大映電通=黒澤プロ)(出)松村達雄内田百輭)、頭師孝雄(北村)(ネガ編集)南とめ(監)(脚)黒澤明(原)内田百輭(撮)斎藤孝雄、上田正治(美)村木与四郎(音)池辺晋一郎(出)香川京子、井川比佐志、所ジョージ、油井昌由樹、寺尾聰日下武史小林亜星平田満、渡辺哲、松井範雄、杉崎昭彦、冷泉公裕、岡本信人、竹之内啓喜、吉岡秀隆

再見。黒澤明も歳をとったのだなという感想。夢のうちに子供の頃を回想し、絵画的な夕焼けで終わるラストシーンは非常に美しい。だが、教え子に慕われる幸せな生活のなかで、家のことや逃げた猫のことなど細々したことだけを気にかけて生きる姿には、メッセージ性はほとんど感じられない。メッセージなどは良いから好きなことを好きな風に描くんだ、という自己完結性が見てとれる。この自己完結的な美意識をどう評価するかは分かれるところだろう。私は猫のいなくなったシーンは良いと思ったが(猫と香川京子が良い)、教え子たちのホモソーシャルな感情共同体がちょっと気味悪いと感じた。でも黒澤の偉大さに変わりはない。