カルミネ・ガローネ『おもかげ』(1935)

CASTA DIVA (91分・35mm・白黒)ロッシーニらとともに19世紀イタリア・オペラの黄金時代を築いた、夭折の作曲家ヴィンチェンツォ・ベリーニの没後百年記念映画。戦前戦後を通じて多くの音楽映画を生み出したカルミネ・ガローネが、若き天才とナポリ大官令嬢マダレーナとの悲恋を美しく描いている。第3回ヴェネツィア映画祭最優秀イタリア映画賞を受賞。
’35(イタリア)(監)カルミネ・ガローネ(脚)ヴァルター・ライシュ(撮)フランツ・プラナー、マッシモ・テルツァーノ(美)ヴェルナー・シュリヒティンク(音)ヴィンチェンツォ・ベリーニ(出)マルタ・エッゲルト、サンドロ・パルミエリ、ランベルト・ピカソ、エンニオ・チェルレージ

王立音楽院の学生と貴族令嬢との許されぬ恋。駆け落ちを目論むも、令嬢は学生の将来を慮り、身を引く。令嬢のおかげで才能を開花させた学生であったが、名誉欲に囚われ、しだいに自分を見失っていく。令嬢は長旅の末、かつて自分に捧げられた愛のアリアを届けにいくのだが…。
ひさびさのフィルムセンター。ベタベタの展開がわりと心地よい。「ヴィンチェンツォなのね、来てくれたのね」と霞む視界のなか幻を見るマダレーナ、哀れ極まる。
「立身出世した学生が天才作曲家になる」「華やかな貴族文化へのあこがれ」「叶わぬ恋という定型」の3つの要素が効果的に結合。大衆的欲望が映画を介して教養文化と結びついている点に時代性を感じる。天才信仰、教養主義の大衆化――イタリアのファシズムにどのくらい影響を与えたのだろう?