ケン・ローチ『麦の穂をゆらす風』(2006)

(127分・35mm・カラー)1920年代のアイルランドデミアンとテディの兄弟は、アイルランド独立を目指す戦いに身を投じていた。激しい戦闘の末に休戦が訪れるが、その喜びもつかの間、英国との講和条約の内容をめぐって内部対立が生じる。不利な条約でも自由へのステップと捉えて賛成する兄テディ。完全な自由を求めて反対する弟デミアン。かつて共に戦った仲間が、家族が、兄弟が、敵味方に分かれることに…。2006年カンヌ映画祭パルムドール受賞。
製作国アイルランド/英国/ドイツ/イタリア/スペイン

数世紀ものあいだイギリスの勢力下に置かれ、辛酸をなめつづけてきたアイルランドプロテスタント不在地主に搾取されるわ、ゲール語は使用禁止されるわ、豊かさからもプライドからも見放されてきた農民たちが、とうとう武装闘争を組織しはじめる。
それが軍である以上は、軍律が適用される。裏切り行為が生じれば死刑がデフォルト。医者のデミアンは同胞の処刑を執行し、独立運動への献身をますます深めていく(どちらかといえばデミアン独立戦争に消極的であったので、認知的不協和がもたらさらされたのだといえる)。
ところが、アイルランド自由国が認められた1922年の英愛条約が事態の混迷を深めていく。シン・フェーン党による、この条約の妥協性をめぐり国論は二分、とうとう内戦が勃発してしまう。
なにが悲惨かって、内戦ほど悲惨なものはないのである。内戦に戦争法規は存在しない。生き方をめぐる対立に終わりはなく、そのことの重みが、この映画の重みにそのまま通じる。傑作*1

*1:明快なカタルシスがもたらされないのは当然である。ただただ重い問いだけが残る。16世紀の宗教戦争が想起されるべきなのは当然であろう。