『アイザイア・バーリン』

M・イグナティエフアイザイア・バーリン』(みすず書房)を読了。彼の人生が終結を迎えるラスト2章では、ほとんど泣きそうになってしまった。傑作映画を見ているような、最上級の読書体験が得られる。

バーリンが独特なのは人間の分裂性〔dividedness〕を強調したことだった。自身は競い合う衝動によって引き裂かれている。人類が追求してきた目標とゴールは互いに衝突している。バーリンは人間の内的、外的な分裂性をまさにリベラルな政策の論理的根拠としたのである。自由な社会がよい社会なのは、それが人間の〔複数の〕善の間の対立を容認し、民主的な制度を通じてこの対立を平和的に処理できるような公開討論の場を維持したからである。/公的な選択も私的な選択も確実性の不在の中でおこなわれなくてはならなかった。リベラルな社会を生命力あるものにした妥協が苦痛をともなわないことはまれで、ときには真の損害と危害をもたらした。……悲劇は選択に内在的なものだった。(221−222)

この著作は「思想史家の伝記」をはるかに逸脱した内容を誇っている。だがそうした起伏に富んだ物語が辿られることで、一人の人間の人生そのものと、それと深く結び付いた思想のあり様が浮かび上がってくる。「悲劇は選択に内在的」、なのだ。