TBSの久保田アナ

東大出版会のPR誌『UP』(10月号)で、蓮實重彦大先生がTBSアナウンサー久保田智子さんと対談(「無数の細部からなる映画の魅力」)。なんでも久保田アナを直々にご指名だとか。いろんな意味で読みどころのある対談だが、一ヵ所、阪神タイガースの久保田もビックリの直球勝負を挑んだやりとりを紹介。

久保田 もうひとつお伺いしたいのは、多分簡潔に言おうと思えば簡潔に言えることってたくさんあると思うんですけど、蓮實さんの文章を読んでいくと決して簡潔には表現しないで、どこかで「蛇のように書く」というふうに言われていたと思うんですが、それには何か理由があるんですか。
蓮實 それはやっぱり私が頭が悪いからであって、多分もっと簡潔に書いていけばいいのだろうけれども、そうすると多分面白くなくなると思うんです。簡潔に書くということは正しい思考に即座に行き着くことじゃないですか。ところが、思考に即座に行き着くとどっかで映画が持っているエンターテイメント性とか、いかがわしさというのが消えてしまうと思う。映画って、ルビッチでさえどっかいかがわしいでしょう。彼は正しい思考の持ち主じゃ絶対ない。その正しい思考の持ち主ではない作家たちの撮った映画に人を引っ張るには、正しい、これを見なさい、なぜなら世界の名作だから、というような言葉だけは絶対に言いたくない。(改行)それは映画の持っているいかがわしい成立の事情、それからいまなお、どうせ映画なんて騙しのテクニックであることは……(以下略)

と、決して簡潔でない蛇のような言い訳(もとい回答)がベラベラ続くわけだが、「それはやっぱり私が頭が悪いからであって…」というのは、東大元総長にして初めて可能な名言である*1。まあ、自分で頭が悪いと思っている人は、こういう言葉は口にしないよね。というわけで、一度は使ってみたいフレーズです(笑)。
それにしても、蓮實重彦ファンであり、映画オタクであることを公表した久保田アナ。『祇園の姉妹』の山田五十鈴に言及する仕方が、アナウンサーとしての職務の履行をはるかに逸脱しており、謎が深まる。

*1:ちなみに中沢事件のシンポジウムで残したとされる、まったく逆の名言もある。大学の先生の言葉遣いは難しい、と質問した学生に対して、「なぜ難しいか、それはあなたが馬鹿だからです」と答えたのだそうだ。可哀相。