成瀬巳喜男『女の歴史』(1963)
(126分・35mm・白黒)日中戦争の時代に嫁ぎ、義父の倒産や夫の戦死、一人息子の事故死など、波乱の半生を綴った女(高峰)の一代記。横溢するエピソードの群れをさばき、太い一本の流れを形作った成瀬の手腕が光る。脚本の笠原良三は、モーパッサン原作の映画『女の一生』にヒントを得たという。
’63(東宝)(脚)笠原良三(撮)安本淳(美)中古智(音)斉藤一郎(出)高峰秀子、仲代達矢、宝田明、星由里子、山崎努、賀原夏子、淡路恵子、草笛光子、加東大介、藤原釜足、堺左千夫、中北千枝子、清水元(FC)
「スクリーンで高峰秀子が見たい!」という衝動に襲われ、新文芸坐へ。フィルムの状態も良く、相変わらずの見事な出来映えだった。
昭和38年の時点と昭和初頭〜昭和20年の時点の二つの時間で構成されている。うまく接続するのか危うい感じもしたが、最終的には上首尾だった。高峰の演技力は相変わらず素晴らしい。ちょっと困りものの不良お婆さんを演じた賀原夏子もウザくてとても良かった。材木問屋が倒産してから、団地に住む星由里子に孫が出来るまでの、昭和の激動を感じさせられる。上野あたりの闇市で高峰と仲代達矢が抱き合うシーンが、メロドラマながら、カタルシスであった。息子を失った高峰が星に悪口雑言を投げつけるシーンにも深みがあり、これが深く感じられるようなかたちで丹念に物語が綴られていた*1。
*1:「女の生き方」を主題とするなかで、やや「子宝思想」のようなものが感じられたが、まあこれは時代性だろう。高峰の嫁入りのシーンで「何だ。いきなり芝居がかって」と慌てる父親の顔、ラスト近くで、雨のなかを突っ立って泣く老いた高峰の姿なども良かった。