『下流社会』

息抜きに読む。この人の本は何冊か読んだが、『仕事をしなければ、自分はみつからない。』(晶文社)、『ファスト風土化する日本』(洋泉社)などをまとめた感じで、それほど新味は感じなかった。まあ、相変わらず、面白いのだが*1とくに、路上で倒れ込んで寝ている若者の様子など、写真に悪意が感じられて楽しい。本書は、データが多く挙示されているのと、消費者イメージの諸類型を提示しているのとで、新しいのかな。(しかし、元になっている調査の方法が、「web調査」となっているのだが、どんなふうにして被験者を選んだのか、不明。)
女性の消費者イメージ類型は、5つに分かれるという。
1.お嫁系。「彼女たちは、典型的には、富裕層あるいは中産階級の子女。名のある女子短大ないし女子大を卒業し、親のコネで有力企業に就職。あるいは昔ながらの家事手伝いをしながら、昼は優雅にお母さんとお買い物や料理をする。そうして、親子共々、現在の階層と生活水準を維持、あるいは向上させる結婚を当然と考えている。」(44)
2.ミリオネーゼ系。「ミリオネーゼは、高学歴、高職歴、高所得。……ミリオネーゼの性格は、上昇志向、頑張り志向で、自己啓発志向が強い。帰国子女、留学など海外体験も豊富である。東京西南部(…)の裕福な家庭の出身者が多く、親も「先生」「士族」であることもしばしば。現在も東京西南部に住む。」(50−51)
3.かまやつ女系。かまやつ女とは三浦展の造語であり、最近の若い女性の中で増加しているファッションの類型。価値観としてはマイペース、自分らしさ、楽ちんを志向しつつ、手に職志向であり、専業主婦志向がない女性を指す。」(42)
4.ギャル系。「早婚、専業主婦、子持ち志向であるが、人生に対する計画性、将来予測能力は弱い。/大都市圏郊外、地方郊外に多く在住。/消費は、大型スーパー、各種安売り店で日用品から高級ブランドまで購入する。ガスト、サイゼリアなどの低価格ファミリーレストランを愛用。/ギャル系は、専業主婦志向であるが、出身階層から考えて、一流大学、一流企業の男性とは出会うチャンスは少なく、多くはガテン系ブルーカラー系)の男性と出会う。」(63)
5.普通のOL系。「……専業主婦志向ではあるが、裕福な男性の争奪戦に敗れて(あるいは早々に戦線離脱して)今は未婚であり、だからといってミリオネーゼのように仕事に生き甲斐を見いだす意欲も能力も不足している。もちろんギャルになるにはそこそこ知性も学歴も高く、美容師やアーチストになるほどの美的センスや自己表現欲求はない。」(66)
「普通のOL系」という類型を作ってしまったために、やや類型区分のインパクトに欠ける結果になっているが、まあ、やりたい事は分からないでもない。ただしこれでいくと、「お嫁系」・「ミリオネーゼ系」はかなり少数の富裕層に偏ってしまうし、また「かまやつ女系」は、若い女性のファッション類型なので、少し類型化の水準が違うような気もしてくる。
私の印象では、大学生や専門学校生などの年齢層では、1〜4の(意識)区分は人格類型とリンクして分析することが可能だが、いざ社会人になれば、多くは5の類型に吸収されるし、1や2は客観的に稀少な社会層となって例外的な分析対象となってしまうのではないかという気がする。
したがって、大多数の「普通のOL」の意識を詳細に分節化するために、各種女性誌の消費イメージと人格類型との関わりを分析するなどの方法で、より立ち入った検討に踏み込むことが望まれるだろう。(小倉チカコが『結婚の条件』でやっていたような記憶もあるが。)

*1:「……宮台シンジさえ、トラウマ系バツイチ子連れジャーナリストとの同棲生活には不満だったのか、結局は、東大名誉教授の娘にして日本女子大卒の、いまどき珍しい純潔な20歳も年下の女性と「ふと目が合って激震が走」り、彼女の父親に「うちはクリスチャンなので離婚はできません」と釘を刺されながらも、めでたく入籍したという(…)。/なぜ宮台を激震が襲ったか?それは彼女が宮台と同じ階層だったからではないか?一族みな東大、祖父も東大教授で昭和天皇に御進講をした生物学者だったという、そういう宮台家にふさわしい女性に、彼は反応してしまったのではないか。いくら既存体制の破壊者を気取り、売春合法化を訴える人間でも、こと自分自身の結婚においては階層性の壁を打ち破ることができないという事実の何よりの証左であろう」(155−156)。というか、相手の女性も同じ階層性に反応してしまったんだろうか?そちらの方が気になる。