山田風太郎

NHK教育テレビで、山田風太郎の戦後の未公開日記を中心に、戦中派小説家から見た戦後社会像をたどる番組をやっていたのだが、大変興味深く、心打たれた。同じ戦中派世代の三國連太郎が案内人であったのだが、それも非常によかった。自分の拠って立つ価値観がその根本から崩れてしまうとき、人は一度、その社会の外部に立ってみることを余儀なくされる。そこから見つめ直された社会は、当然、奥行きのある像として結ばれることになるだろう。もちろん、その「奥行き」のあり方は人それぞれに違いない。あえて天皇主義を選びなおすことも可能だし(三島)、戦後民主主義の理念に深く傾倒することも(大江)、経済的繁栄にエネルギーを傾けることも(ダイエーの中内)、同じく可能だろう。だがいずれにせよ、そこには反省を経由して選択されたという、自らの立場への批評性が宿っているように思われる。功罪半ばする立場性もあるだろうが、それでもなお何らの魅力が見出されるように思われるのである。もっとも、山田風太郎の立場性については、ただ立派の一言に尽きており、はやく戦後日記も公開してほしいと願うのみだ。