『夜明け前』

吉村公三郎監督、1953年。142分。脚本、新藤兼人。出演、伊達信、細川ちか子、滝澤修、小夜福子乙羽信子、山内明、清水将夫、日高澄子、ほか。

島崎藤村の長編歴史小説の映画化で、近代映画協会が独立プロの威信をかけて劇団民藝とともに制作した大作。幕末から維新にかけての動乱の時代。庄屋で国学者の青山半蔵(滝沢)が、理想に燃えつつも新時代に幻滅し、座敷牢で生涯を終えるまでの軌跡が重厚に表現されている。

傑作。ひとつひとつのカットに様式美が感じられて、素晴らしい。「木曽路はすべて山の中である」ではじまる『夜明け前』だが、霧のかかった深い山の情景が美しく、また夜のシーンがとりわけ魅力的に感じられた。闇のなかで灯りの周りに集いながら語り合っている様子は、木曽の深い山の中で時代の胎動に耳をすませている舞台設定と、見事に調和していると思った。