契約関係の発展過程

契約関係は原始的なものではなく、時代を下ってはじめて可能となった関係性である。契約関係を可能にしていたものは、もっぱら第一次的な道徳的法的基盤であった。そもそもの起源は、同一の神の乗り物として血肉を観念する原始共同体の「血の契約」(ロバートソン・スミス)、その派生態としての共食関係にまでさかのぼる。それと同一の原理で、事物の交換が共同体間でおこなわれた(共同体の「状態」を一定化するための所作)。共同体におけるある神聖な状態に基づいて、契約当事者は互いに結ばれていたわけだ(「要物」契約)。
ところが、これがさらに進むと、言葉による契約関係が成立することになる(「要式」契約)。しかしこの場合、言葉には呪術的な神聖性が備わっていた。誓約に見られるとおり、それは神と結びついた言葉であり、厳格な儀礼性・形式性を必要とするものだったのだ。
「要物」契約における「意思の片務性」とは異なり、「要式」契約においては意思の相互性が存在していたため、それは真の契約関係に接近するものであったといえる。だが、契約当事者を結びつける媒介物が必要とされた点で、それは真の契約関係そのものにまでは至っていなかった。「要式」契約における(1)神からの拘束、(2)他者からの拘束、の二要素のうち、後者が発展することによって、現代的な契約関係ははじめて誕生の条件を得ることになった。その段階に「諾成」契約が位置するわけである。