『ヨコハマメリー』

同じく飯田橋ギンレイホール大傑作。万難を排して見るべき作品。監督、中村高寛。主演、永登元次郎五大路子杉山義法
横浜伊勢崎町あたりを拠点に1995年の冬まで、「ハマのメリーさん」と呼ばれていた老娼婦がいた。彼女は突然姿を消したのだが、本作は彼女と親交のあった人たちへのインタビューを通じ、元パンパンだったメリーさんの過ごしてきた横浜の街の歴史、人と人とのつながりの歴史を見事に描いている。
メリーさんは皇后陛下と呼ばれるほど気位の高い人だったようだ。どきついメイクで恐れられ、エイズ騒動では嫌悪されたりもしたメリーさんだったが、それでも彼女を支える人がいたのは、頑ななまでのプライドのなかに、揺るぎない信条の清々しさが感じられたからだろう。さらに根岸酒場に象徴される、戦後の猥雑なエネルギーの高揚のなかで、さまざまな生活破綻者が、もがきつつ、したたかに生き抜いていた、そのことの共通了解が存在したからであろう。外人墓地に混血児が幾人も捨てられていたという横浜で、それでも人としてのプライドを保ち生きていたメリーさんが、戦後も遠くすぎ去った伊勢崎町を、なおケバケバしい化粧姿でうろつき回っていた姿は、さぞおどろおどろしい情景であったはずだ。しかし戦後が追い求めてきた光の背後には、人々の情念の渦巻く影が纏わりついていることを、この映画は、その多層的な歴史への遡及を通じて、存分に示しているのである。ヨコハマの戦後史のなかにメリーさんの振る舞いを置き直せば、その姿に心動かされない者はおそらくいまい。
このような映画を完成させた監督と関係者に、素直に敬意を表したい。http://with.cot.jp/merry/11-22.htm
横浜、伊勢崎町。http://d.hatena.ne.jp/seiwa/20060916