『嫌われ松子の一生』

まったくひさびさに飯田橋ギンレイホール。2006年、中島哲也監督。出演、中谷美紀瑛太伊勢谷友介、ゴリ、柴崎コウ
CG加工が美しく、ミュージカル仕立てのストーリー運びも秀逸。構成、情景の描写ともに、たいへん良く出来た作品。中谷美紀が素晴らしい。
ACの女性が面白おかしく、だが、ずばりと本質を突いて描かれている。結局、人間は幼少期における全面的承認なしには、まともに生きていくことはできないのだ。障害者の妹に向けられた愛情によって相対的に剥奪感を感受していた主人公は、不恰好にしか他者からの承認を求めることができない。愛されていないという恐怖感、劣等感ゆえに、愛されることも、愛することも、たどたどしく、偏頗にしか、追求することができないのである。
しかし、本作品が優れているのは、そのたどたどしさ、不恰好さのなかに、その人の個別的な生のあり様を見出し、肯定をなしうる視点を見出そうとしていることだ。松子の人生が歪んでいたとして、その奇妙な愛の追求のなかに、一片の真実すら見出しえない、ということにはならない。AC的な倒錯へ向けられたユーモア感覚をつうじて、松子が愛あるいは他者承認を追い求めつつ、人生と格闘していた、そのあり様の真実性が浮かび上がってくる。
優れた才能をもった監督であることは間違いないので、将来的にはもっとシンプルなかたちで訴えかけてくる作品を期待したい。