小林信彦『うらなり』

読了。たいへん面白かった。
「その深部において悲劇として読まれることを望んでいる」(有光隆司、「創作ノート」)という『坊つちやん』作品*1の登場人物、うらなりが主人公の作品。人生を反芻するうらなりの内向ぶりが何ともいえず味わい深い。初老にもなってマドンナに再会し、後悔を覚えるあたりの感覚が、何となく分かる気がする。あと、うらなりも暗いが、うらなりのお母さんはもっと暗く、陰湿ささえ感じられる*2

うらなり

うらなり

*1:「創作ノート」を読んでいて思い出したが、私が『坊ちゃん』を読んだのはたしか小学校の4年生か5年生の頃だったと思う。もちろん、単純素朴に面白かった。

*2:うらなりは、母親からの自立によって始めて、そこそこの幸せを得ることができたように思われる。母親からの自立は妻を迎えることで果たされるが、その嫁姑関係のこじれをどううらなりが見ていたのかは興味深い問題だ。