おととい買った本
迫り来る緊迫感に耐えられず逃避した古本屋で、柳宗悦『蒐集物語』(中公文庫・復刊限定)700円、岡野弘彦『折口信夫の晩年』(中公文庫)150円、を買う。柳のは高いかと思ったが、欲しかったので、気持ちにまかせた。岡野の方が安いから400円の本を2冊買った計算にする。というか、岡野の本は絶対安い、これだったら。
柳の主張のエッセンスはキミーに洗脳されて耳タコであるが、やはり当人の言葉は深さが違う。「ゴウシについて」という珍品とのめぐり合わせを書いたエッセイに頷くこと頻りだったが、蒐集の心構えについての主張に傾聴すべき点が多い。
望むらくは蒐集は権威を有つものでありたい。全体として犯し難いある力を示すものでありたい。厳然とした直観的立場を持つならば、自からその蒐集には確実さが出よう。知的な概念に便る者は、絶えず右顧左眄せねばならない。不安や懐疑が伴うのは必定である。かくして自信を持つことがついに出来ない。集めるものに玉石が交錯するのは、宿命的な結果である。概念に選択の力があると思うのは間違いである。惜しい哉、多くの蒐集には洗練された選択がない。(245)
金持ちの蒐集を批判するのもこの文脈である。これを受けて柳は、「もし民藝館がこの世に寄与しているものがあれば、それは新しく整理せられ統一せられた美を提示した点にあろう」と自信を覗かせている(245)。
柳は蒐集における三つの鉄則を、次のように整理する。
ここで心掛けねばならない三つのことがある。一つはすべての分野に目を行き渡らすことである。徒らに片寄ってはならない。二つには正しいものと然らざるものとをよく見分けることである。どこまでも質を主にすることを忘れてはならない。第三には一切のそれらのものに統一性を保たせることである。互いに深い連絡を有たせることである。範囲のみを拡げ、数のみ多くなったとて、よい蒐集にはならない。いつもそれに質を求め、統一を企てねばならぬ。かくするなら蒐集全体が一個の作品の如き観を呈するにいたるであろう。…(246)
古本道にも通じる。幼少期、東京への家族旅行で「民藝館」に立ち寄ったことが思い出される。
彼の民藝論は、主客未分の「直観」概念が出てくるかと思えば、やたらプラグマティックな立場が伺われたりして、掘り下げてみればなかなか面白い視点を含んでいるように思われる。資本制批判とか、集合的無意識とか、Benjaminなんかと無理やり絡めて研究してる人もいるんだろう、たぶん。
…というわけで、折口先生の珍エピソード満載の岡野本については、またの機会に。先生の奇行は本当にすごい。
- 作者: 柳宗悦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
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