気分が乗らない

頭がぜんぜん働かないのでひたすらぼうっとするしかなかった。岡崎武志『古本でお散歩』『古本生活読本』(ちくま文庫)を八重洲地下街で買って、フィルムセンター近くのエクセルシオールでコーヒーを飲みながら眺めていた。頭つかわなくていいし、ちょうど良い。
小林信彦『夢の砦』の上巻を読み終える。適度にエロティックな部分もあり、時代風俗も興味深いので*1、ひじょうに楽しめる。『時代観察者の冒険 1977−1987全エッセイ』にもこの作品をめぐる記述がいくつか見られる。

小説の内容は、ひとことでいえば、『坊ちゃん』の六〇年代版である。ぼくの実生活と重なる部分があり、弱小雑誌の若い編集者が社内の陰謀と戦うのが前半、マスコミの広い世界に飛躍するのが後半だ。半自伝的であるだけに、ぼくが心配しているのは、主人公をひろう老作家が江戸川乱歩さんそのものと読まれるのじゃないかということ(乱歩さんをよく知っている人はちがうと思うだろうが、世の中には半可通のバカがいるからね)で、あとは、どう読まれてもいい。とにかく、フィクションなのですから。
ただし、主人公が、自分の作った雑誌から追われる後半のクライマックスは、九十パーセント、ぼくの体験したことだ。この〈体験〉は、ぼくが今まで口をつぐんでいた空白の部分で、千六百枚書いた原動力は、それへの執念だ。六〇年代初頭がバラ色の時代だった、などと言わせないために、ぼくは常識外れの長編を書いたのである。(279−280)

このまま気分が持ち直さないと、最後まで読んでしまいそうな勢いだ。時代観察者の冒険―1977‐1987全エッセイ (新潮文庫)

*1:活字文化と映像文化、舞台芸人とテレビタレント、戦争の記憶と「レジャー」の広がり等々、1960年から1961年にかけてという時代設定の面白さに引き込まれる。