山口二郎『ブレア時代のイギリス』

現代イギリス政治について物凄くよく分かった。新しい社会民主主義の方向性=第三の道、について考えたい人には是非おすすめ。好著。
なおマニアックなコメントをしておけば、第6章での<「生存のリスク」の強調によって「生活のリスク」を覆い隠す新自由主義的政治>というまとめはちょっとおかしいのではないか。曲がりなりにも社会民主主義路線を取るブレア政権下でも、2003年に「反社会的行動取り締まり令ASBO」が制定され、監視社会化が進んでいる。ここには、社会的介入を嫌わない労働党政権特有の<生存のリスク>への過剰反応が見て取れるのではないか。<生存のリスク>に対しての「新自由主義的対応様式/社会民主主義的対応様式」の二類型が想定できそうだ。
また強力に進められたイギリス教育改革では、階級社会を打破するためのメリトクラシーの徹底を図りつつ、(保守党支持者を含む広範な有権者の理解を得るための)市場主義・アカウンタビリティーの重視が目指されており、その独特のバランス感覚は、表層的なイギリス追随を目論む安倍バカ首相の一顧だにしない所である。とはいえブレア政権では政治的バランスを考慮するあまりか、市場主義に傾きすぎているのが現状といえそうだ。

ブレア時代のイギリス (岩波新書 新赤版 (979))

ブレア時代のイギリス (岩波新書 新赤版 (979))

ところで新自由主義は政治の脱分化なのか、経済の脱分化なのか。山口氏は「政治の否定」としていたけれど、本気で考えれば謎である。