丸根賛太郎『狐の呉れた赤ん坊』(1945)

名作。

(85分・35mm・白黒)大井川の川越え人足として働く暴れ者が、捨てられていた赤ん坊を、意地を張って育てる羽目になるが、やがて子どもの素性が分かり…。孤児との交流という点でチャップリンの『キッド』も思わせる、阪東妻三郎の戦後第1作にして、情感に満ちた丸根賛太郎監督の名篇。
’45(大映京都)(撮)石本秀雄(監)(脚)丸根賛太郎(原)谷田善太郎(出)阪東妻三郎羅門光三郎、原健作、阿部九洲男、見明凡太郎、荒木忍、香川良介、光岡龍三郎、寺島貢、谷讓二、橘公子、原聖四郎、澤村マサヒコ

「……この赤ん坊が実はさる大名のおとしダネとわかるお話は、チャップリンの名作『キッド』と同様の趣向だが、じつにうまく面白くできたのは、ホロリ人情も加えた阪妻の好演に負うところも大きい」と双葉十三郎氏。まったくその通り。
佐藤忠男氏は、阪妻が稲垣監督『無法松の一生』の出演にあたり英雄豪傑な役柄でないことに逡巡していたとして、しかし『無法松』が代表作となった理由について、「いかにもそれらしい、本当に粗野な人間ではなく、じつは英雄豪傑であっておかしくない器量を持った人物が、たまたまそういう境遇にあって、しかしそれなりの自信を持って堂々と生きているという風情が素晴らし」かったと書いている(『伊丹万作「演技指導論草案」精読』(岩波現代文庫)P208)。
川越え人足としての矜持を持った豪放磊落な男が、子供への情愛に目覚めるという本作品でも、『無法松』のような「風情」が感じられて素晴らしい。子供を愛せばこそ子供を手放すことも出来ると納得して、子供を負ぶさって大井川を渡るラストシーンは、泣かせる場面でありながら、幸福感に満ちていた。