渋谷実『気違い部落』(1957)

公開:1957年 監督:渋谷実
主演:伊藤雄之助淡島千景水野久美、藤木満寿夫、山形勲、諸角啓二郎
東京付近のとある山間部に争いながら犬を追いかけ回すほど極貧に苦しむ村があった。村は機屋の良介と高利貸の又一によって仕切られていたのだが、村一番の頑固者・鉄次が神社の境内の土地の所有権を巡って因縁をつけ、大騒動を巻き起こす!森繁久彌の名調子の解説も必聴。

かなりしっかりと地方の風習が書き込まれている。きだみのる『気違い部落周游紀行』のエピソードが生かされているので勉強になる。物語自体は、胸部疾患の娘が、家が村八分にされて最後は死んでしまう、というもの。『気違い部落〜』とは異なっている。杜鵑、葬儀の風習、蓄音機の住職、などは『気違い部落〜』にも出てくる。

人が胸部疾患に犯されたと聞いたとき、普通、我々は肝油、肝臓末、ヴィタミン注射液、止血剤を想い起す。この辺ではそんなものは想い起さない。医者の存在すらも想い起さない。何よりもまず杜鵑を、しかもこの可憐な小鳥の黒焼を想い起こすのだ。…(129)

ノリが悪く社会に爪弾きにされている父親が、自分のエゴからストレプトマイシンを売ってしまい、娘を死なせてしまう。意地を張ったり理屈を通したりしていたって、自分だってやはり卑しいのだ、と気づくやるせなさに、観ている自分の自己嫌悪感情が刺激された。悲しい。

気違い部落周游紀行 (冨山房百科文庫 31)

気違い部落周游紀行 (冨山房百科文庫 31)

今調べてみると、結核の少女が死んでしまうという物語が岩波新書『にっぽん部落』の方に見つかった。あちこちのきだの著作からストーリーを創作したようだ。映画は各俳優の存在感があって良かった。