渋谷実『霧ある情事』(1959)

公開:1959年 監督:渋谷実
主演:岡田茉莉子 津川雅彦 三上真一郎 芳村真理 加東大介
妻の告別式当日、建設会社の常務・室岡は参列者に挨拶もできないほど忙しい。しかし、息子・浩一は公務執行妨害で留置所へ入れられ、電話が鳴り、愛人・園子から「関係を清算したい」と言われてしまう。室岡や図々しい自分の父から逃れようと、逃避行を決行する園子を演じる岡田茉莉子のけだるさが美しい。舟橋聖一の同名小説を原作に作られた文芸もの。

予想以上の佳作。前半は加東大介岡田茉莉子が中心で、品格のある仕上がりになっている。後半からは怒涛のサスペンスに突入するが、これまで感じたこの監督のテンポの悪さは微塵も感じなかった。黒沢清『LOFT』に出てきたのとよく似た霧の漂う湖が写り、この湖のシーンがとりわけ素晴らしい。張り詰めた表情の岡田茉莉子が美しく官能的で、これだけでも見る価値はあると思う。