渋谷実『本日休診』(1952)

公開:1952年 監督:渋谷実
主演:柳永二郎、角梨枝子、鶴田浩二淡島千景、田村秋子、三国連太郎佐田啓二岸恵子市川紅梅
この日、三雲医院では戦後の新装開院1周年。休診の札をさげ、老医師と婆やは昼寝でもしようとしていたが…。突然、戦争の後遺症をかかえる婆やの息子、警官に連れられてきた暴行され、憔悴しきった娘、指を詰めるから麻酔をしてくれと騒ぐチンピラまでやって来る始末。井伏鱒二の『本日休診』『遥拝隊長』の二本の短編をもとに描かれる傑作風俗喜劇。

双葉十三郎先生によると、渋谷実監督は、「変に見せ物をつくろうとすると却って自分が照れてしまうといった性格」、「ハッタリはあるが」「背後にはにやにやしているふてぶてしい作家の面魂が透けて見える」「成人の作家」、つまり皮肉屋の監督、ということだそうだ(『日本映画批判』P338)。本作品も、「そうした客観が失われていないからこそ、鶴田浩二の与太者をはじめとする市井の人物が、大袈裟な喜劇的動作を示さなくても、実に滑稽に見えるのである」。
柳永二郎がほのぼのとした好演を見せており、医者という役柄上、『酔いどれ天使』の志村喬と比較したくなった。俳優人が多彩に個性を発揮しているのが素晴らしいが(淡島千景三国連太郎鶴田浩二!あと佐田啓二のお母さんも)、構成的には最初に登場人物が羅列的に示されるので、本当に収斂するのかが不安に感じられた。雁を見上げるラストシーンは無理やりの感もあったが、良いシーンでした。