ヘンリー・キング『悲愁』(1959)

公開:1959年 監督:ヘンリー・キング
主演:グレゴリー・ペック、デボラ・カー、エディ・アルバート、フィリップ・オバー、ハーバート・ラドリー、ジョン・サットン、カリン・ブース、ケン・スコット
ハリウッドで孤独な生活を送っていた人気ゴシップ記者のシーラは、あるパーティーで作家フィッツジェラルドに出会い、互いに心惹かれてゆく。しかし彼の体は既に酒に蝕まれていた。シーラの暴露的手記を原作に、『慕情』の監督・撮影のコンビが送るメロドラマ名編。生活のためハリウッドの脚本家として闇に沈みこむ天才作家フィッツジェラルドの、最後の恋の行方は…。

一目見て恋に落ちた二人はお互いの困難にぶつかりながらも愛を貫き…というやや大味な恋愛ドラマ。骨髄までに達したアメリカ人のロマンティック・ラブ・イデオロギーに入り込めなければ、バカらしくて観ていられない。愛するなら愛する、愛しないなら愛しないではっきりしてください、そんなに大騒ぎされたって私にゃ関係ございませんよ、と言いたくなる。
ところで、村上春樹訳『グレート・ギャツビー』のあとがきには、こうある。「人々は長いあいだ、フィッツジェラルドのことを『過去の流行作家』とみなして歴史の薄暗闇の中に放り込んだまま、ほとんど見向きもしなかった。アルコール依存症と、ゼルダの発狂と闘病、そして一人娘の養育という重荷を一人で抱え、慢性的な財政の逼迫に苦しみながら、それでも文学的野心と文学的良心を失うことのないまま、スコットは身を削るように小説を書き続け(全盛時の有無を言わせぬ輝きは求めがたいけれど、その多くは手に取る価値のある優れた作品である)、一九四〇年に四十四歳の若さで世を去った。」(349)
この一節をめぐる誇張をも含んだ解釈だと考えれば、それなりに記憶に残る映画かもしれない。