ジョン・フォード『わが谷は緑なりき』(1941)

公開:1941年 監督:ジョン・フォード
主演:ウォルター・ピジョンモーリン・オハラ、ドナルド・クリスプ、アンナ・リーロディ・マクドウォール、メエ・マーシュ
時は19世紀末、ウェールズの炭坑夫一家。賃金カット、組合組織をめぐる父と息子の対立、家族の死、姉の不本意な結婚といった出来事に見舞われながら、一家の経たかけがえのない日々が淡々とリリカルに追想されてゆく。暗めのトーンに一部分だけ強い光をあてた画面が印象的。フォードは登場人物に家庭的な温かみを加えるため、自身の両親と兄妹を一家のモデルにした。

これも双葉十三郎『外国映画〜』から引用しておこう。

十九世紀末のウェールズの炭鉱で働く一家の物語。強い家族愛に結ばれながらも、ストライキ、落盤、恋とさまざまな出来事が生じ、ある者は亡くなり、ある者は谷を去っていく。郷愁作家としてのフォード監督の才能が遺憾なく発揮された名作である。コーラスを加えた音楽の用法もすばらしく、一家の日常生活とそれぞれの人生行路がしみじみとした味わいで描かれている。不況や貧しい生活といった社会的状況が基盤になっているが、社会派的ではなく、あくまで人情の角度からとらええているところがフォードらしく、感銘もふかい。

双葉式採点法ではなんと最高点。味わい深い傑作。
「How green was my valley」という題名どおり、主人公による回想形式のナレーションが入るのだが、この過去形の語りからしてすでに泣かされてしまう。「郷愁作家」とはよく言ったものだ。幸福な一瞬とさまざまに襲う不幸の交錯のなかで、勇気をもって胸を張って生きていくことの大切さが胸にしみてくる。あと、無知な悪人にも素朴な善人にもなりうる存在として民衆が描かれている点が、比較文化的に興味深い。少年が学校で教師にいじめられ、その教師が殴り返される場面のカタルシスの後に炭鉱内の事故で兄が死んでしまうという緩急も上手いし、そこで使われるエレベーターが、教会でモルガン家が排斥された後の二度目の悲劇として重要な道具立てとなる展開も上手いと思った。アメリカとアメリカ人に対する関心がかき立てられる。