今村昌平『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』(1970)

(105分・35mm・白黒)『人間蒸発』以来ドキュメンタリーへの興味を強くした今村が、ニュース映画の会社である日本映画新社の依頼を受けて撮ったテレビ向けドキュメンタリー。横須賀の外人向けバー「おんぼろ」を経営するマダムがさらりと語る虐げられた過去の話に、日本の戦後史を象徴するニュース映像が挿入される。
’70(日本映画新社)(脚)今村昌平(撮)栃沢正夫(出)赤座たみ、赤座悦子、赤座あけみ、赤座昌子、赤座千枝子

すばらしい。被差別部落、肉屋、終戦闇市、結婚、浮気、家庭内暴力、米軍、共産党朝鮮戦争、水商売、創価学会、離婚、内縁の夫、米兵、横須賀、皇太子結婚、安保闘争ベトナム戦争、大学紛争。
ペラペラとよくしゃべるマダムの身の上話は、単純素朴だが、そのぶん軸がブレてなくて、不思議な迫真性がある。ニュース素材も素晴らしい映像だし、なんだかんだいって、マダムの人生が時代に関わっていくのが面白い。マダムの妹が「美智子」だったりとか、けっこう奇跡的な絡み合いもある。ドキュメンタリーという性格上、今村監督の観念性が控えめに抑えられていて、それが作品の完成度を上げているように思った。戦後史を切り取る視点としてユニークかつ意義深く、今こそ観られる価値がある作品。佳作。