今村昌平『女衒 ZEGEN』(1987)

(124分・35mm・カラー)明治時代、故郷を捨てて海を渡った男(緒形)は香港で囚われの身の日本人女性たちを助けたのを機に、女衒となるが、時代の変化と愛する女(倍賞)の心変わりにより全てを失う。エネルギーに満ちた女たちとそのエネルギーを貪らんとする男の卑猥さには圧倒せんばかりの迫力がある。
’87(東映=今村プロ)(脚)今村昌平岡部耕大(撮)栃沢正夫(美)横尾嘉良(音)池辺晋一郎(出)緒形拳倍賞美津子、柯俊雄、三木のり平小西博之深水三章杉本哲太殿山泰司レオナルド熊常田富士男寺田農河原崎長一郎熊谷真実池波志乃、風間舞子、神田紅、古館ゆき、趙方豪石井光三、細川智、児玉玄、野口雅弘、A・JALAK

すばらしい。オーソドックスな作りで、円熟を感じさせる。
人間の猥雑さが持つエネルギーと、同じくそこに由来する偏狭さ。おかしくも哀しい人間の姿がしっかりと捉えられている(というか、それこそ今村監督作品の本質に他ならないわけだが)。
緒形拳倍賞美津子の名演に尽きる。明治から昭和へと至る女郎屋の親分を演じた緒方拳、「身体は売っても魂は売らない」決意の美しさが印象的な倍賞美津子。日本の近代史を支え、かつそこに呑み込まれていく大河小説的な魅力を堪能することができた。ただ「日本男児」とか「お国のために」といった言葉がいつ頃から使われ始めたのかという歴史的事実が、若干気になった。