今村昌平『復讐するは我にあり』(1979)

(140分・35mm・カラー)日本各地で詐欺や殺人で罪を重ねた男(緒形)の実話に基づいたサスペンス調の劇映画。緒形拳の人を殺める演技には鬼気迫るものがあり、三国、倍賞、清川虹子をはじめ主役以外を演じる俳優陣も充実している。今村は映画のもとになった犯行について、調べれば調べるほど不可解さを感じ、その犯人像を掴むのに苦労したという。
’79(松竹=今村プロ)(原)(出)佐木隆三(脚)馬場当(撮)姫田真左久(美)佐谷晃能(音)池辺晋一郎(出)緒形拳三国連太郎ミヤコ蝶々倍賞美津子小川真由美清川虹子殿山泰司垂水悟郎絵沢萌子、白川和子、浜田寅彦フランキー堺北村和夫火野正平梅津栄

フィルムセンター。双葉十三郎氏の評が非常にするどい。

…ぼくは今村監督とはあまり体質的に合わないのだが、この作品は実に面白かった。今平さんのふてぶてしさが特によく生きていた。榎津巌(緒形拳)は専売公社の二人を殺害、故郷九州を出奔、千葉(間違い。正しくは池袋――引用者)で老弁護士を殺し、浜松のあいまい宿経営の母娘(清川虹子小川真由美)も明確な動機もなく殺害する。父(三國連太郎)との相克や宗教への疑義なども出てくるが、なんでもないような日常的場面から不条理ともみえる人間の虚無がにじみ出てくるのが、ぼくには長く印象に残った。(184)

漬物を漬けている小川真由美を殺害するシーンの緒形拳の表情は、鬼気迫るものだった。主人公の残虐きわまりない犯行の影には、カトリックの家に生まれついたこと、父と母の反目、妻と父との恋愛関係など、無数の事情が影響していたのだろうが、事実は曖昧模糊としており、まさに不条理、虚無という言葉で言い表すほかないものだ。奇怪に歪んだ特異な人格を生々しく演じる緒形拳が素晴らしい。倍賞美津子の豊満なおっぱいを三國連太郎が鷲づかみにする温泉場のシーンが、エロくて、最高だった。倍賞美津子は良い。