川島雄三『わが町』(1956)

(98分・35mm・白黒)デビュー作の原作者でもあり、川島に影響を与えた小説家・織田作之助を追悼する意味も込めて撮った作品で、もともとこの原作は戦時中に溝口健二が撮る予定だった。大阪を舞台に、愛する女(南田)と死別し、女と自分の間にできた娘(高)と孫娘を一生懸命に育てる男(辰巳)の不器用な生き様が描かれる。
’56(日活)(原)織田作之助(脚)八住利雄(撮)障汨コ倉太郎(美)中村公彦(音)眞鍋理一郎(出)辰巳柳太郎南田洋子大坂志郎殿山泰司、障泓F子、北林谷榮、小澤昭一、河上信夫、峰三平、井東柳鋤X、紀原耕、仲島豊、山本かほる、鈴村益代、村田寿男、三橋達也、菅原通濟

素晴らしかった。辰巳柳太郎が最高。情は厚いが不器用にしか生きられない車屋って、もろに『無法松の一生』やん、と思ったが、親子孫の三代に渡る一大人生絵巻をユーモアたっぷりに描ききったうえに、最後は「その不器用さが周囲の人間に強いた犠牲」という人間の業を冷徹に見据えている。
南田洋子一人二役が極めて効果的だ。孫役で再登場するときの南田の明るさが作品全体の深刻なトーンを救っている。辰巳柳太郎は頑固に自分の生き方を貫くが、偏屈さゆえに親族を失い、孫からの批判に身体を震わせて、泣き崩れる。胸が痛いシーンである(隣人の噺家殿山泰司の老残ぶりも哀しい)。義理の息子にフィリピンに行くことを強要するシーンの直後、すでに船が港を離れてしまっている、というようなスピーディーなユーモアも魅力的だが、最後、プラネタリウム南十字星を見て死んでしまうシーンにしみじみ感じ入った。おすすめ。