ジャン=リュック・ゴダール『アルファヴィル』(1966)

『ALPHAVILLE』。フィルムセンター小ホール。

(99分・35mm・白黒)コンピュータが人間を統治する異銀河都市アルファヴィルへ、探偵が行方不明の教授を探しに現れる。フィルム・ノワールなど他ジャンルの要素が混じり込み、SF映画のパロディの域に達したゴダールの異色作で、探偵が恋におちる教授の娘、アンナ・カリーナの流す涙が忘れがたい。
’66(ショミアーヌ・プロダクション)(監)(脚)ジャン=リュック・ゴダール(撮)ラウール・クタール(美)ピエール・ギュフロワ(音)ポール・ミズラキ(出)エディ・コンスタンティーヌアンナ・カリーナ、エイキム・タミロフ、ジャン=ルイ・コモリ、ミシェル・ドラエ、ジャン=アンドレ・フィエスキ、クリスタ・ラング、ジャン=ピエール・レオ

探偵が訪れたホテルの一室で矢継ぎ早に事件が展開し、これは何も分からない前衛映画なのでは?と危惧したが、途中から物語のかなり明瞭な構成が見えてきて、非常に楽しめた。この映画は哲学映画である。理知性と芸術性との堅固で構築的な結合という意味で、クラシック音楽に類比可能。陰鬱な苦悩の物語と救済(ロシア系の作家の近い印象)。
粘着質な痰でも大量に絡まっているんじゃないかと思うほどネットリした重低音のコンピューター支配者の声に、まずはグッと引き込まれる。アルファヴィルでは非論理的な人間は思想検査のうえ処刑されるのだ。「意味論研究所」の研究員アンナ・カリーナは、「聖書」=「辞書」を片手に「失われた言葉」を忘却してしまっているのだが、探偵との詩集を介したやりとりのすえ、言葉と感情を取り戻す。高速道路を疾走する車中で「Je vous aimez」とたどたどしく声を発する「救済」の瞬間が感動的だ。
理知的であることと高度な芸術的表現とが無理なく両立しうる、ヨーロッパ世界ならではの秀作。ひさびさのゴダールだった。