ジャン・ルノワール『獣人』(1938)
(1938年/100分/35ミリ/モノクロ/フランス語/日本語字幕付き)出演:ジャン・ギャバン、シモーヌ・シモン、フェルナン・ルドゥー、ジュリアン・カレット
ル・アーヴルとパリを結ぶ列車の機関手であるジャック・ランチエは、遺伝で脳に障害があり、発作を起こすと女性を殺したくなる恐ろしい病に取り憑かれていた。ル・アーヴル駅の助役ルボーは15歳年下の美女セヴリーヌと結婚していた。/ルボーが妻への嫉妬から政界の実力者を列車内で殺したとき、ジャックが車室から出ていく夫妻を目撃していた。彼の態度から自分たちが疑われていると感じた夫妻は、晩餐にジャックを招待する。セヴリーヌに興味を持っていたジャックは買収されたような振りをした。/ジャックはセヴリーヌを前にしていれば発作が起きない。彼はセヴリーヌに愛を告白した。二人は夫に隠れ、逢い引きをするようになっていた。/ある日、セヴリーヌが殺人の真相をジャックに打ち明け、夫を殺すように頼んだ。だがジャックにはできない。さげすむような態度で去っていくセヴリーヌを見て、ジャックは発作を起こしてしまう……。(東京横浜日仏学院HP)
『獣人』を撮って、私はますます「詩的写実」主義に対する信念を固めるばかりだった。(……)ここで言う「詩」とは、機関車から醸し出される雰囲気や蒸気の煙が私に与えてくるもの、そして俳優たちにも与えられ、どんな説明よりも彼らの演じる役の肌の中で入っていくものだ。(ジャン・ルノワール)/『獣人』の物語は、ランチエ(ジャン・ギャバン)の暗鬱たる衝動と、愛への明るい希望との闘いに終始している。欲望される身体、とりわけセヴリーヌ(シモーヌ・シモン)の身体が現れるほとんどどのショットに、その闘いの張り裂けるばかりの苦しみを感じることができる。ジャック・ターナーの『キャット・ピープル』と同様に、影と光が共存していて、結局、影が光を奪ってしまう。父親についての回想録の中で、ジャン・ルノワールはピエール=オーギュスト・ルノワールが「猫のような女性」を描くのが好きだったと述べている。『獣人』で、シモーヌ・シモンが猫とともに最初に姿を現すのを思い出す。4年後、そのシモーヌ・シモンはターナーとともに、『キャット・ピープル』に戻ってくる。(ドミニク・パイーニ)。
完璧に腑に落ちた感じはしないが、美しい映画で、とくに機関車が良かった(鉄塊としての質感)。セヴリーヌを殺して放心状態のジャックは機関車から身を投げるのだが、疾走感に満ちたラストの風景描写が素晴らしい。キャメラの上下の動き、横の動きで、斬新さを感じるシーンがある(ジャックとセヴリーヌが結ばれる雨のシーンが一例)。