川島雄三『愛のお荷物』(1955)

(110分・35mm・白黒)人口抑制が叫ばれる中、厚生大臣の一家では既婚・未婚関係なく、様々な男女間で愛の結晶たる子どもができる。日活へ移籍した川島が、パートナーの柳沢とともにアンドレ・ルッサンの戯曲を大きく改変して実現した快作で、三橋達也が3役こなしているのも興味深い。
’55(日活)(脚)柳沢類寿、川島雄三(撮)峰重義(美)中村公彦(音)黛敏郎(出)山村聰三橋達也山田五十鈴北原三枝轟夕起子東野英治郎殿山泰司三島雅夫、小沢栄、郄友子、小田切みき菅井きん東恵美子坪内美子フランキー堺小沢昭一、小川虎之助

双葉十三郎『日本映画批判』では、「佳作」「快作」と評価が高い。

川島雄三の演出はテンポすこぶる快適で、やたらに統計を並べた開巻から、委員会の場面における大臣の答弁へとよく滑り出している。この答弁の場面はかなりの尺数が費やされているが、女代議士をまじえた野党委員とのやりとりの台詞が面白く処理もうまくいっている。ついで場面が娑婆に転じ、いり乱れての妊娠合戦になるが、人物が多いのにもかかわらずさばき方がよくテンポも乱れず、出演者諸君諸嬢もいきいきと動いているので、活気のある一篇となった。(365−366)

風俗作家としての川島作品には時事的要素が盛り込まれているので、歴史的観点からの興味も尽きない。優生保護法を始めとする人口(抑制)政策と赤線廃止の風営法とが、ひとつのロジック(「正しい生殖」)で繋がっていた可能性にも気づかされた。
スターリンそっくりの山村聰は、『足にさわった女』の作家役と共通の軟派さがよい味を出していた。山田五十鈴と夜道を歩く場面で、いきなりマキノ映画のような雰囲気になったのが面白かった。三橋達也轟夕起子あたりも好演であるが、北原三枝の男まさりな魅力が光る。