川島雄三『暖簾』(1958)

(123分・35mm・白黒)上方料理の味に欠かせない昆布の集積地、大阪が舞台。昆布問屋の主人(中村)に拾われ、厳しい丁稚奉公を経て暖簾分けを受けた男(森繁)が、やがて訪れた逆境を息子に救われる。山崎豊子のデビュー小説を元にした菊田一夫の戯曲をベースに、商人親子の年代記が綴られる。
’58(宝塚映画)(原)山崎豊子(脚)八住利雄川島雄三(撮)岡崎宏三(美)小島基司(音)眞鍋理一郎(出)森繁久彌、頭師孝雄、山田五十鈴乙羽信子中村メイコ浪花千栄子中村鴈治郎扇千景、環三千世、万代峯子、汐風享子、夏目俊二、山茶花究、小原新二、田武謙三

素晴らしい。秀作。古い町並みを旦那を追って歩く少年の描写から始まって、コミカルでありながらも人情味溢れる町人の様子が描かれ、最後には敗戦後の商家の建て直し、デパート販売までが収められる。染み入ってくるような情感を湛えた雰囲気に酔っているうちに、思いもよらないダイナミックな展開を見せる驚きは、『わが町』でも味わったものだ。
『わが町』の南田洋子と同じく森繁久彌一人二役(父と子)を演じている。老人役が絶品。森繁の演技はリアリズムというより、理知的に構築されたキャラクターを動かしている感じなのだが、そのキャラクターに息が吹き込まれ、結果としてハイパーリアルな迫真性が伴う。特異な役者だが、とにかく素晴らしい。
乙羽信子も良かったが、山田五十鈴が素晴らしかった。もう若くはなかったはずだが、十分若さを感じた。台風の場面とかも、どう撮ったんだろうと思うリアルな出来栄え。最後の場面(昆布の倉庫で死んでしまう)はけっこうしんみりした。