岩井俊二『花とアリス』(2004)

上映時間 135分 監督 脚本 音楽 岩井俊二
出演もしくは声の出演 鈴木杏蒼井優郭智博相田翔子阿部寛平泉成木村多江坂本真大沢たかお広末涼子ふせえりルー大柴アジャ・コング叶美香伊藤歩中野裕之虻川美穂子梶原善テリー伊藤大森南朋松尾れい子

早稲田松竹。極めて高いクオリティー。傑作。
神奈川の郊外が舞台。記憶喪失と言い含め、意中の男の子と付き合い始める女の子(鈴木杏)とその友達(蒼井優)。記憶喪失という設定に象徴的なように、主人公の周囲をフェイクとリアルの境界が不安定に揺れ動く。フェイクがリアルになりリアルがフェイクのようでもある――この特殊なリアリティーは、過剰に飾られる花々に囲まれる鈴木杏の家、おびただしい小物が溢れる蒼井優の家に端的に表象される。ここでは、微細な意匠との戯れによって、リアリティーが何とか維持・獲得されている。
家族愛に恵まれず、愛に対して、断念を抱いているかのような蒼井優。人間関係の危機を抱えた経験をもつ鈴木杏。彼女らがフェイクによって世界を肯定していく物語に(恋愛、雑誌モデル、「ウォウ・アイ・ニイ」)、ポストモダンな時代における新たな自己形成の可能性が垣間見られる。
芸能人が多数出演しているが、記号的存在の集積においてなお、(ハイパー)リアルを表現しうるのだという、監督の自信が現れたものだと理解できる。これはもちろん、本作の本質と深く関わるものである。とにかく素晴らしい作品で、併映の『リリィシュシュのすべて』も再見すればよかったと後悔。蒼井優が半端でなく素晴らしい(『フラガール』の比ではない)。