川島雄三『雁の寺』(1962)

(98分・35mm・パートカラー)嗜虐的な性向のある禅寺の住職とその愛人の情事を覗く少年僧が、殺人を犯すに至るまでの心理を綴った水上文学の映画化。川島は禅についての本も徹底的に読んで撮影に備えたという。撮影の村井博はキャメラ・アングルに工夫を見せ、川島作品としては絵画的な趣がある。
’62(大映京都)(原)水上勉(脚)舟橋和郎川島雄三(撮)村井博(美)西岡善信(音)池野成(出)若尾文子三島雅夫木村功、高見国一、中村鴈治郎山茶花究、万代峯子、加茂良子、小沢昭一西村晃、荒木忍、葛木香一、東良之助、寺島雄作、菅井きん

これも傑作だった。後期川島作品は凄いと思う。
水上勉ワールドだが、市川監督『炎上』(市川雷蔵主演)が思い出された。感受性が過剰で世界との根本的な異和を抱えている少年僧(演者が素晴らしい)。出自にコンプレックスを抱える少年は、人間関係に怯えつつ、世界の不条理に異常に敏感になっている。
鳶が蛇や小動物を捕え、木下の穴に放り込む、その穴のなかでは爬虫類や獣の死体がドロドロに腐っている――少年僧は若尾文子にこのようなことを言って怯えさせるのだが、鋭敏な少年のなかにこのような関心が見出せるのは、サカキバラに限らず、しばしばあることだ(そういう関心や感覚の存在は非常に重要なことだとわたしは考えている)。
その少年が、若尾文子を囲って怪しからぬことをしているなまぐさ住職を埋めてしまうストーリーだが、住職の方はともかく、若尾文子の「凡庸な女」の演技は相変わらず非凡なもの。生々しい色気(エロさ)が絶品である。映像も素晴らしい傑作作品。