豊田四郎『波影』(1965)

(106分・35mm・白黒)名撮影監督・岡崎宏三が、自ら白黒撮影の代表作に挙げた豊田四郎の名篇。日本海の小村を舞台に、若尾文子演じる薄幸の娼婦の半生を綴った水上勉の世界を、岡崎は強めのコントラストで画面に構成した。『甘い汗』『千曲川絶唱』など、豊田・岡崎のコンビには他にも数々の傑作がある。
’65(東京映画)(撮)岡崎宏三(監)豊田四郎(原)水上勉(脚)八住利雄(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)若尾文子、中村賀津雄、大空真弓乙羽信子浪花千栄子沢村貞子春川ますみ山茶花究三島雅夫、太刀川寛、田武謙三、柳家小せん、深見泰三、大辻伺郎ロミ山田木村俊恵

宗教的な厳かささえ感じさせる様式美が素晴らしい。京都の小浜だと思うが、小さな湾の独特な波の揺れに合わせて、船がやってくるシーンから始まる。波の上に細かい雨。白黒画面が硬質でありながら生々しい不思議な画質を生み出している。
不意をつき顔のアップから始まるショットも上手い。遊郭の女主人、乙羽信子のヒステリーも見事な演技だが、何といっても京都弁の若尾文子は天才的な演技。この人は頭で考えない動物的勘を備えた女をやらせると絶品である。無意識だから悪女なのだ(この映画は悪女役じゃないが)。
作品そのものには疑問な点も残った。遊郭の息子がコンプレックスで人生を誤っていく姿や、娘が世間の偏見のために学校の先生になれない、などの話も出てくる。いちおう若尾文子に収斂していく構造にはなっているのだが、「遊郭は賤業か」という「皮相なデモクラシー」批判、さらには実存の問題まで視野が広げられており、話が分かりにくくなってしまっている。ゴージャスなオーケストラのBGMも『砂の器』のハシリかと感じたが、冒険していて良いと思うものの成功しているとはいえなかった。
それにしても岡崎宏三の手腕は見事なもの。川島作品や豊田作品で感心させられたが、溝口健二と相性が良いのではないかと想像させられる。