マイケル・アリアス『鉄コン筋クリート』(2006)

監督:マイケル・アリアス 主演:二宮和也蒼井優伊勢谷友介宮藤官九郎大森南朋岡田義徳森三中
松本大洋の人気漫画をかつてない躍動感とドライブ感をもってスタジオ4℃が映像化。2人の少年シロとクロの住む「宝町」に開発の波が押し寄せ、謎の「子供の城プロジェクト」が始動する。3人の殺し屋と「ヘビ」と呼ばれる男の出現で、次第に陰を帯び始める町と、シロとクロの運命は?!

絵が細かくてビックリ。2006年の映画だが、バブル崩壊阪神大震災オウム事件、神戸連続少年少女殺傷事件など、90年代のトラウマを深く刻印した作品だと感じた。その意味での迫力に圧倒された。
シロ(二宮クン)とクロ(蒼井優)という主人公に象徴されるとおり、「二項対立的な世界観の止揚」というのがテーマ。私が思い出したのは村上春樹の『海辺のカフカ』『アフターダーク』。たとえば『海辺のカフカ』では、記憶を喪失し現在のみを生きるナカタさん、図書館のなかで記憶の中だけを生きている主人公の母親が登場する。思春期の主人公が見舞われた実存的混乱は、ジョニーウォーカーの父性的暴力を媒介に、現在と過去とが調和的に統一されることで解決されていた*1
このように現在性の偏重、過去への退却というパターンは、精神的危機への異なる合理化パターンとして理解可能である。前者はリストカットだし、後者はひきこもり。この映画では明らかにシロが「現在中心主義」で、クロが(現在からの退却に起因する)「過去への退却」に当たっている。
最終的に「過去と現在とをともに回復し、両者に統一をもたらすことは可能か」ということが「主人公に救いは訪れるのか」「世界に希望はあるのか」というテーマへの回答になるわけだが、この作品では、絶望を徹底することこそが止揚への道、かつ希望を手放さないことが大事、と語られている。それなりに説得力のある回答だろう。それにしても、やっぱり景気回復すると、こういう問題意識ってリアルじゃなくなるのかなぁ、と帰り道、考え込んだ。

*1:実は『アフターダーク』にも二項対立の止揚という図式があるのだが、面倒なので説明しない。まあ読んだ人はわかるだろうと思う。