オーサ・ブランク/ヨハン・パルムグレン『代理教師』(2006)

The Substitute/Vikarien (85分・35mm・カラー) 荒れた教室をどうにもできない若い教師が、73歳になった伝説の名教諭に助けを求め、クラスの再生を図る。スウェーデン教育界における教師の状況について主要な新聞でも大きな議論を呼んだ話題作で、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭などに出品されたほか、「金のカブト虫賞」でもベスト・ドキュメンタリーに選出されている。
2006年製作 監督:オーサ・ブランク Åsa Blanck ヨハン・パルムグレン Johan Palmgren 製作:オーサ・ブランク Åsa Blanck ペッテル・ハンソン Petter Hansson 撮影:ヨハン・パルムグレン Johan Palmgren 編集:ペッテル・ブルンデル Petter Brundell 音楽:ヨーラン・カイフェス Goran Kajfes クリッレ・オルソン Crille Olsson

ひさびさのフィルムセンター。スウェーデン・ドキュメンタリー新作選。
スウェーデン国内でも話題となった作品のようで、大変興味深い内容だった。スウェーデンは北欧では唯一、歴史的にも移民政策に積極的な国であったらしく、しかし移民向けの学校教育については本国民との格差問題が生じつつあるのだそうだ。
映画では、さすがの名教師も手を焼くシーンが映し出されていた。生徒たちは机に足を投げ出したり、ウォークマンで音楽を聴いたり、ガムを噛みながら携帯で遊んだり。「こんなのは初めてだ」と先生も頭を抱える始末。
上映後、製作に関わったトーヴェ・ヘルシュコヴィッツ・トールビョンソン(スウェーデン映画協会フィルム・コミッショナー)さんと場内ディスカッション。おじさんたちがテキトーな質問をしているので、私も質問してみた。
それによると、スウェーデン国内での学校格差は、選挙区の政治家の影響力が大きく、経済的資源が必要な学校に供給されていないとのことらしい。また代理教師の地位は低く、身分は不安定なため、現場レベルでの問題をもたらしているという事実もあるそう(教師ー生徒関係の信頼構築の失敗など)。移民の家族も、永住申請の手続き期間が長すぎるために、不安定を抱える構造を強いられていたという(現在は改善)。移民という立場での家庭教育の難しさも、映画に見られた問題につながっているのだろう。
移民問題も他人事でないが、ヨーロッパではスウェーデンポルトガルが移民の生活状況においてトップの水準を誇っているそうだ。逆にデンマークは最悪であるらしい。ただしそれでも移民をめぐる教育問題は深刻であり、これにはおそらくスウェーデン国内における新自由主義改革が背景に控えているのだと考えられる。1990年代に入ってスウェーデンは、日本と同じくバブル崩壊に瀕し、その対応に迫られたからだ。
というようなことを知ったかぶりで書いているのは、スウェーデンの教育について、神野直彦氏が新著で紹介しているからである。北欧諸国では就学前教育もかなり積極的に行われているらしく、その点についても移民政策との関連で興味がそそられる。
それにしても、トールビョンソンさんは実に魅力的な女性であった。子供の頃から世界中を飛び回っていたとパンフレットに書いてあったが、活動的で知的なのが素晴らしい。一目惚れした(17歳の娘がいるが)。
http://www.oeff.jp/1092-Vikarien.html
http://www.swedenfilmcommission.com/2004/news/index.php?id=134&categoryID=2
http://www.sfi.se/sfi/smpage.fwx?page=5673