マキノ雅弘『藤純子 引退記念映画 関東緋桜一家』(1972)

(101分・35mm・カラー)尾上菊五郎との結婚を控えた藤純子の引退を飾るオールスター仁侠映画で、マキノにとっても映画界での最後の監督作品となった。明治の東京を舞台に、義理と人情に生きる火消し「に組」と、強欲な新興やくざ・鬼鉄一家の対立を描く。鬼鉄一家を倒した信三(高倉)とともに旅立つ鶴次(藤)の、映画史に残る別れのシーンは必見。
'72(東映)(脚)笠原和夫(撮)わし尾元也(美)富田治郎(音)木下忠司(出)藤純子鶴田浩二高倉健、片岡千惠藏、藤山寛美若山富三郎菅原文太待田京介木暮実千代嵐寛寿郎

平日の昼間からやくざ映画で憂さを晴らすという、世間様には説明できない娯楽を満喫。とにかく傑作だった。しかしマキノ自身にとっては満足いかない出来だったらしい。

オールスター・キャストだから、一人一人のスターの顔をアップ、アップで撮らなければならないと言われ、これでは純子の引退と結婚のはなむけにはならないと思った。あんなものしかやってやれない東映にはいよいよ愛想がつきた。純子の九年間の努力にむくいてやれる内容ではなかった――あれほど純子の映画で大儲けしたのに。/『関東緋桜一家』には純子の映画の何もかも詰め込んだが、逆にそのために内容は薄いものになった。『緋牡丹博徒』シリーズのイメージが強く、立回りのシーンが多かったが、そちらの方の演出はほとんど小沢茂弘に任せてしまった。(『映画渡世・地の巻』492)

この点については、今週号の『週刊文春』で小林信彦氏が、マキノは女の立ち回りが好きではなく、『関東緋桜一家』の立ち回りの演出は他人に任せた、との事実を紹介している(女の立ち回りが好きではなかったから、そうしたのかどうかは本当は不明)。
しかし、ぼくはこの映画はやはり傑作だと思う。鶴田浩二高倉健、片岡千惠藏、藤山寛美若山富三郎菅原文太ら、すべて素晴らしい。とくに高倉健の敏捷な動物的瞬発力、鶴田浩二の男の色気に惚れぼれする。藤純子が賭場に乗り込んだときのピンクの和服、ピンクの口紅が、信じられないほど美しかった。すてきすぎて惚れた。