飯尾潤『日本の統治構造』(中公新書)

読了。名著。第5章の国際比較がちょっと面倒なので、そこは飛ばしてでも、ぜひ読まれることをお勧めします。難しいけど、重要な問題が語られている。
大筋としては、イギリス型の議院内閣制(ウェストミンスター・モデル)の実質化が必須だと述べられている。これまでの「官僚内閣制」「省庁代表制」「政府・与党二元体制」は、日本型の議院内閣制の運用形態として機能してきたが、1990年代以降、機能不全が露呈した。トレード・オフ関係にある政策選択において、積み上げ式の政策決定方式は有効ではない。
あるべきモデルの提示も啓発的かつ説得的だ。ただひとつだけ憂慮されるのは、官僚と融合しない政党の場合、今後、どのようなかたちで政治家が育成されうるか、という点である。世論の「党派性への拒否感」を打ち破ったうえで、開かれた政党が目指されるべきだと指摘されており、その方向性自体に間違いはないと思う。が、これまで官僚と半ば一体化して政策能力を保ってきた(与党を中心とする)政治家が、派閥政治のような育成システムを失った際、はたしてどのように政策能力を獲得していけるのか。この点は「開かれた政党」のイメージが見えないだけに難しさがあるかもしれない。
なお、本書の筋道を辿っていくと、やはり小沢一郎の偉大さを痛感せずにはいられない。以下の書は、オーラルヒストリーとして有益な読み物である。「日本的コンセンサス社会」を批判し、真にラディカルに「議院内閣制」を追求したのは他ならぬ小沢である。その政治理念は高く評価されるべきものだと考えざるをえない*1

90年代の証言 小沢一郎 政権奪取論

90年代の証言 小沢一郎 政権奪取論

*1:金丸信の佐川急便事件の影響もあって自民党を離党したため、必要以上に90年代政治は分かりにくくなったが、それも今から考えればやむをえないプロセスだったのかもしれない。