ジャン・ルノワール『大いなる幻影』(1937)

LA GRANDE ILLUSION (113分・35mm・白黒)第一次世界大戦の戦場を舞台に、戦争の虚しさを描いたルノワールの名作。J・ギャバン、E・V・シュトロハイムなど名優が共演している。今回上映するのは、フランス国立映画センター・アルシーブやシネマテーク・ドゥ・トゥールーズが中心になって可燃性オリジナル・ネガから復元したプリントで、本作の魅力を改めて確認できるものとなっている。
'37仏(脚)シャルル・スパークジャン・ルノワール(撮)クリスチャン・マトラ(美)ウジェーヌ・ルリエ(音)ジョゼフ・コスマ(出)エリッヒ・フォン・シュトロハイムジャン・ギャバン、ピエール・フレネー、マルセル・ダリオ、ジュリアン・カレット、ガストン・モド、ジャン・ダステ、ジャック・ベッケル

映画が達し得た、ひとつのジャンルにおける最高の作品であろう。ヒューマニズムに貫かれているが、アメリカ映画的ではない。戦争という絶対の場面における人々の過去、性格、心理の交錯と、そこから浮かびあがってくる人間的なもの、それが主題である。第一次大戦後半、ドイツの捕虜となった二人のフランス軍飛行士と一人のユダヤ人、ドイツの指揮官、農家のドイツ女性――。さまざまなドラマの末、脱走したギャバンが言う。戦争が終わったらあのドイツ女性に再会できるだろうか。一人が答える。そんな幻影を抱くのはやめろ、と。それが「大いなる幻影」かどうかは見る人によってきまるだろう。この映画に技巧のための技巧は見られない。内容がそのまま画面になっているからである。すべてのショットが、ルノワールの描こうとしたものを端的にあらわしているからである。(双葉十三郎『外国映画ぼくの500本)

双葉先生の最高点作品。のんきなようにも見えるし、第一次大戦というヨーロッパの精神的崩壊をふまえた諦念にも感じられる*1、不思議と淡々としたタッチの作品。
ムッソリーニも激賞した作品らしいが、やはり当時のヨーロッパの精神的背景や、ルノワールの他の作品も見てみないと完全には理解できない気がする。とはいえ、脱走した二人が出会ったドイツ女性の孤独感はかなり胸に迫るものがあった。人間は孤独でつねに他人を求めているのに、どうしていがみ合ったり戦争したりするんだろうかね?「お前の顔なんて金輪際みたくない」って言って決裂したあと、すぐに仲なおりした主人公二人の姿が、ルノワールの賭けるヒューマニズムの可能性なのだろう。

*1:戦争が終われば俺たちも貴族じゃなくなるのさ、という発言があったはず。