ETV特集「神聖喜劇ふたたび〜作家・大西巨人の闘い〜」

大西巨人が自らの経験を基に陸軍内部の理不尽さをえぐり出した長編小説「神聖喜劇」。91歳で現役の作家大西の姿を追いながら、今再び注目されるその作品世界を描く。/戦後文学の金字塔といわれる長編小説「神聖喜劇」。作家・大西巨人長崎県対馬での軍隊経験をもとに、陸軍内部の理不尽さをあぶり出した巨編だ。2006年に漫画化、若者を中心に支持を得て日本漫画家協会賞手塚治虫文化賞を受賞、脚光を浴びた。91歳でなお創作意欲の衰えない大西。番組では大西の原点ともいえる対馬への旅を追い、朗読劇で「神聖喜劇」の世界を描き、闘い続ける老作家の姿を見つめる。【出演】西島秀俊ほか

とても感銘を受けた。阿部和重が語っていたように、「空気を読まない」行為こそが「人間的な振る舞い」なのであって、それをとおして「生命の肯定」がなされていくのだ、というのは(大西の思想にあって)まさにその通りなのだろうと想像する。
ひとつの不条理をめぐって、虚無主義者が虚無主義者であるがゆえに倫理的な主体的決断に頼るほかない、というのはなかなか興味深い逆説だと思う。このような「主体性論」はある意味で倫理的狭量さを導きかねないものであるが*1、「上官の一人に日本の農民・漁民の公明正大さを見出す」という小説のストーリーにも見られるように、軍隊経験や子供の障害の経験は、大西の思想に深みや広がりを与えることに寄与したのだろう。それもまた虚無主義者だったからこそ達しえた普遍性なのだろうが。
神聖喜劇』は読んだことはないし、読む予定も見つからないが、ぜひ読んでみたいと思わされる番組でした。

*1:ぼく自身も資質的に明らかに「主体性論」者的なところがあり、ここ暫くはそれを緩める方向で物事を考えてきたのだが、最近カントについて調べたり読んだりしていると、やはり何らかの道徳的直覚はあるんじゃないかと思ったりもする。