『政局から政策へ』

飯尾潤『政局から政策へ』(NTT出版)を読了。『日本の統治構造』とあわせて、知的エリート必読の書。逆にいえば、この本を読んでおけば、さしあたっての政治的基礎知識は十分だと考えられる。
興味深い論点は多数提出されているが、なかでも小泉政権への極めて高い評価が注目に値する。竹中を中心とする不良債権処理、郵政民営化を争点とする解散総選挙のやり方、そのいずれもが評価されている。「政策の丸投げ」にすら政治的合理性が認められており*1、本来的な議院内閣制に照らしての小泉政権の政治手法が(政局と政策の絶妙のバランス)、小選挙区制導入以降の政治改革のひとつの達成として位置づけられている*2
また主題的には記述されていないが、(小渕政権時の財政出動に顕著であったような)「90年代地方バラマキ型景気回復策」への批判的視点も見られる。国際競争力をもった企業の資本が、国内市場に投下され、そのことによって経済が拡大するというサイクルは、グローバル経済の進展によって破綻した(79)。とするなら、経済成長を実現する場合、地方に公共事業を集中させる伝統的手法は有効ではない。公共事業を縮小させた小泉政権の経済政策こそが適切な経済政策であったといえる*3
ちなみに私自身、「R・ライシュ型ネオリベラリズム」は経済戦略上の不可避のスキームだと考えているが、その際、二つの点への留保が重要だと思っている。ひとつは、それが世界システム上の資本収奪を前提とすることへの規範的対応、もうひとつは、トリクルダウンの成否は技術的問題として残ることへの目配り、である。こうした対応まで小泉政権において十分であったとは思えないが、飯尾の評価は深く納得させられる妥当性を有していると思う。

*1:政策の総合性を確保するという意味でのリーダーシップが発揮されていれば、丸投げ自体は政治的エネルギーの配分上、合理性を持ちうる。

*2:ただし、それらが継続する政策課題の解消にとどまるものであったこと、また「安心再生型」(⇔「信頼創造型」)の政策内容であった点で伝統的な政治課題に照準していたこと、などといった過渡的性格も指摘されている。

*3:飯尾先生はこんな評価までは下していないので、念の為。なお、90年代急速に整備された地方のハコモノ事業は、その後の地方財政の悪化を招くことになった(84)。地方財政の窮状は、2002年からの「三位一体改革」で地方分権とセットで論議された財政再建策が「補助金率引き下げ」という最悪の決着に至ったことによっても招来された(198)。