溝口健二『近松物語』(1954)

(101分・35mm・白黒)近松門左衛門浄瑠璃「大経師昔歴」に、西鶴の「好色五人男」の要素が加味されている。周囲の誤解が元で不義の恋に目覚め、悲劇へと追い込まれる男女の物語。溝口の演出を初めて受けた長谷川は、新たな側面を見せて評価された。
'54(大映京都)(出)長谷川一夫(茂兵衛)(監)溝口健二(原)近松門左衛門(脚)依田義賢(撮)宮川一夫(美)水谷浩(音)早坂文雄(出)香川京子南田洋子進藤英太郎、小澤榮、菅井一郎、田中春男、石黒達也、浪花千榮子、十朱久雄、荒木忍

人間の魂の高貴さとはこういうものか、と思わされる。理屈を超えて守るべきものを見出す時、人間は実存の自由を獲得する。香川京子長谷川一夫は、世俗から隔絶された琵琶湖の湖上において、封建社会の論理を転覆させるのである。
山椒大夫』でも『雨月物語』でも、世俗と超俗の境界に「水面」が現れる。この世俗の超越は、法悦の世界であるとともに、業の肯定として、魂の高貴を祝福する。溝口にしか可能でない映像世界と言うべきで、何度見ても傑作なのであった。