ヨーエ・マイ『アスファルト』(1929)

ASPHALT(117分・18fps・35mm・無声・白黒)*日本語インタータイトルのみ
1930年1月日本公開。実直な若い警察官と女泥棒の道ならぬ恋と犯罪を描いた作品。ベティ・アマンの官能的魅力が話題を呼び、1928年に発足して間もない東和商事最初のヒット作となった。当時、川端康成が都新聞に「アマン讃」という文章を寄せたことは有名。
’29(ドイツ)(監)ヨーエ・マイ(脚)ハンス・セケリー、ロルフ・E・ファンロー、フレット・マヨ(撮)ギュンター・リッタウ(美)エーリッヒ・ケッテルフート(出)ベティ・アマン、グスタフ・フレーリッヒ、アルバート・シュタインリュック、エルゼ・ヘラー

「義務」(父なるもの)と「エロス」(母なるもの)の止揚、が、この作品の主題だと考えられる。
義務を重んじる警察官は、女泥棒のエロスに迷い、義務の履行に失敗する(逮捕を見逃す)。女泥棒は「貧乏だから仕方なかったの」と警官に取り入るが、じつは贅沢三昧・遊び放題で、ここにはエロス的なものの堕落が見て取れる(ダイヤモンドを盗む)。
だが二人は惹かれあい、このことが悲劇を生む。恋愛がもつれ、警察官は殺人を犯し、他方、女泥棒は彼の正当防衛を証明すべく、自身の罪を告白し、逮捕される。
ここに至って「義務」と「エロス」の止揚が達成される。「義務」とは「文明的なもの」であり、「エロス」とは「精神的なもの」である。警官の父親が読む新聞が「犯罪日報」であるように、輝かしい都市文明は人間の堕落を生じさせるが、これは「精神的なもの」によって補完されるのでなくてはならない。
「文明的なもの」と「精神的なもの」の結合によるドイツ・ナショナリズムの再生(および完成)。「アスファルト」という題名は「母なる大地」が「文明」と一体化すべきことを志向する、メタファーになっていると考えられる(たぶん)。