黒澤明『虎の尾を踏む男達』(1945)

(59分・35mm・白黒)能の「安宅」、歌舞伎の「勧進帳」で知られる義経と弁慶の安宅越えの物語を翻案した黒澤明初の時代劇。大河内が弁慶に扮し勧進帳を読み上げる。新たに創作されたエノケン榎本健一)の「強力(ごうりき)」が狂言回しとして加わり、忠誠心のドラマを引き立てている。終戦直後に完成しながら占領軍の検閲で公開は7年後となった。
'45(東宝)(出)大河内傳次郎(弁慶)(監)(脚)障テ澤明(撮)伊藤武夫(美)久保一雄(音)服部正(出)藤田進、榎本健一森雅之志村喬河野秋武、小杉義男、横尾泥海男、仁科周芳、久松保夫清川荘司

エノケンがすばらしい。山伏が弁慶の一行であると気づく冒頭が楽しく、森を進む弁慶たちをチョコマカ追いかける時のキャメラワークも、単純ながらホノボノとした雰囲気がある。
大河内傳次郎の弁慶はとても格好いい。勧進帳を読み上げるシーンの一味の不安な表情、それを捉えるカット割りも冴えていた。
それにしても「判官贔屓」という感情は今の若い人たちに残っているのだろうか?「富樫みたいに不合理だったら、そりゃ戦争にも負けるわな」とつくづく感じたが、しかし勝ち馬には乗って負けるとバッシングするという合理性も、それはそれで味気ないものだと思える。「セレブ」みたいな言葉が流通しているのも、日本が遠くまできた証かもしれない*1

*1:星野阪神が強くなり「勝ちたいねん」とか言い出した時期から、少なくともタイガースは判官贔屓の対象ではなくなった。個人的な印象で歪めて見てみれば、これも大きなことのように感じる。まあ星野JAPANへの批判はバッシングだとは思わないけど。