マキノ雅弘『仇討崇禅寺馬場』(1957)

(92分・35mm・白黒)『崇禅寺馬場』(1928年)を自らリメイクした作品。史実では悪役の武士・生田伝八郎が、本作では悲劇の主人公(大友)という設定で、善人が「悪」へ落ち行くさまが描かれる。銃も使いこなす鉄火肌のヒロインお勝(千原)が、愛するが故に生田を破滅へと導いてしまう。1958年、京都市民映画祭で数々の賞を受賞。
'57(東映)(原)山上伊太郎(脚)依田義賢(撮)伊藤武夫(美)桂長四郎(音)鈴木静一(出)大友柳太朗、千原しのぶ、堀雄二、進藤英太郎三島雅夫杉狂児徳大寺伸、松浦築枝、風見章子、三條雅也

郡山藩の剣の試合で、殿様の虚栄が原因となり、大友柳太郎は師範の任を解かれる。大友は試合相手の柳生派の剣士と果たし合い、剣士の兄弟から遺恨試合を挑まれる。師範を辞めさせられ、妻からも見放された大友、遺恨試合にあたって脱藩を命ぜられた剣士の兄弟、ともにサラリーマン社会さながらの苦渋を嘗める。
武家の話ばっかりで、まるで小林正樹の『切腹』みたいだなと思っていたら、大友が「なにわ」の任侠の家に身を寄せて以降、ガラッと雰囲気が変わる。お勝(千原)と出会い、「武家の世界なんかより恋の世界のほうが厳しいのよ」などと言われ、マキノ映画の魅力が全開してくる。お勝と大友が水辺で恋心を語り合うシーンは、夕闇に向こう岸が遠くに見えて、任侠物の藤純子とか、次郎長映画の恋語りを彷彿とさせた。
しかし果たし合いの後、大友の気が狂い、内田吐夢大菩薩峠』の世界になってしまう。お勝だけはマキノの情の世界を必死に主張していたが、それが武家の論理とぶつかりあって、少し理屈が勝つ感じになっていた。この問題は他人事じゃなくて、見るのが辛かった。